【連載コラム】 リスクベースの考え方


連載コラム  第1回 ISO 9001:2015改正のポイント

(2016年1月8日)


 改正されたISO 9001に新たに全面的に採りいれられたポイントは、“リスクベースの考え方”です。

 AS/EN/JISQ9100要求事項の中では、
7.1.2リスクマネジメント、
8.1一般 統計的手法としての“故障モード、影響/致命度解析(FMECA)、
8.4データの分析 c)予防処置の機会を得ることを含む・・・、
8.5.3予防処置
注記 予防処置の機会の例には、リスクマネジメント、エラープルーフ、故障モード影響解析(FMEA)及び外部情報源からの報告される製品問題に関する情報・・・
など製品に直接に関するリスクを主体とした要求事項であると理解しています。

 それを裏付けるものとして、AS/EN/JISQ9100の
3.1リスク(risk)の定義は、
  “発生確率と起こり得る好ましくない結果との組み合わせをもつ望ましくない状態と状況”としており、
3.2特別要求事項の定義についても、
  リスクマネジメントと関連して、“特別要求事項の例として、顧客によって課せられた産業界の能力の限界にある
  性能要求事項、又は組織が自らの技術若しくはプロセス能力の限界にあると判定した要求事項が含まれる”
と規定しています。製品の開発・設計、製造等におけるリスクと読み取れますね。

 上記のことから言えることは、航空宇宙防衛産業界を対象としたAS/EN/JISQ9100要求事項では、リスクベースの考え方は“製品品質確保のためには、設計・開発、及び工程設計段階での活動の重要性”をISO 9001:2008に追加して要求してきたといえます。ただし、“製品”中心です。

 ISO 9001:2015での“リスクベースの考え”は、特に“製品”に主体としているわけではなく、全体として“事業継続のリスク”を念頭に置き、“品質マネジメントシステムに及ぼす影響”について要求していると理解する必要があります。

 次回は、“事業継続のリスク”を含めた“リスクと機会”について解説します。

文責:門間 清秀

連載コラム 第2回 リスクと機会 ISO 9001:2015改正のポイント

(2016年1月15日)

 ISO 9001:2015で求めている“リスクベースの考え方”は、製品だけではないことを第1回で解説しました。
規格ISO 9001:2015「QMS−要求事項の解説 主な改正点e)リスク及び機会の取組み」では、“・・・・ここでいう
リスクとは不確さの影響であり、例えば、事業環境の変化、設備の異常など、発生するかしないかは未確定である現象が、QMSに及ぼす影響である。
一方、機会とは、目的を達成するのによい状況・時期である。例えば、規制緩和による市場の拡大、設備更新など、取り組めば目的達成に近づく状況・時期を意味する。”ことと解説しています。非常にわかりやすい事例です。

 さらに続けて、“この要求事項の強化は、QMSの計画を十分検討せず、不適合が発生すれば再発防止を行なえばよいといった考え方をしてきた組織に対して、計画機能の充実を求めたものである。”と追加説明しています。

 リスクベースの考え方は、不適合発生後の物品処理と是正処置といった後追活動よりも、予防に重点を置いてQMSを推進することを求めた改正といえます。それがQMS、EMS環境マネジメントシステム、労働安全衛生システム等のシステム規格全体わたり採用したのです。

 当然ながら、予防としてのリスクベースの考え方での推進は、経営層を含めた事業計画をベースとした活動でなければ意味がありません。また、計画、実施、評価、改善のP-D-C-Aの管理サイクルをまわして取り組むべき事項です。

次回は、“事業継続のリスク”と外部環境について解説します。

文責:門間 清秀

連載コラム 第3回 外部環境の理解と産業クラスターの活用 9001:2015改正

(2016年1月22日)

 ISO9001:2015 箇条4.1「組織及びその状況の理解」の中で、“組織は、組織の目的及び戦略的な方向性に関連し、かつ、そのQMSの意図した結果を達成する組織の能力に影響を与える、外部及び内部の課題を明確にしなければならない。”と規定しています。

 今回は、この“組織の能力に影響を与える外部の課題”を明確にするには、どのような活動が必要かを検討してみます。
では、このヒントに、“注記2 外部の状況の理解には、国際、国内、地方又は地域を問わず、法令、技術、競争、市場、文化、社会及び経済の環境から生じる課題を検討することによって容易になり得る。”があります。

 “何だ! 規格の要求事項の一部を書いているだけではないか!”と叱られそうです。まずは規格の要求事項を確認して、次に進みましょう。基本的に、規格は「方法論(どのような方法で課題を明確にするかの方法)」は規定しないのです。

 その一つの方法として「産業クラスター」のメンバーになり、外部情報を獲得することです。
大企業は、注記2のような外部情報を常時監視・分析し、経営に反映している専門の企画部門があります。しかし、中小企業となるとそのようなわけにはいきません。

 中小企業にとって、自社が属する「産業クラスター」のメンバーになれば、同じ産業界の顧客、競争同業者、政府・地方自治体、大学、金融機関等々が参加する@技術研究会、Aシンポジウム、B講演会、C国内外展示会、D商談マッチング等々を通して、政府・地方自治体のサポートのもと開催されます。自然と外部環境に関する情報が入ります。その中には、各種補助事業の紹介もあります。

 まずは、積極的に自社の属する産業界とその地域で、「産業クラスター」に参加し、その情報を収集・分析し、自社としてどのように進むべきかを「内部環境」つまり、自社の「強み」、「弱み」を検討し、経営戦略としてまとめ経営方針、品質方針に結び付けることです。

文責:門間 清秀

連載コラム 第4回 内部環境分析と対応 9001:2015改正

(2016年2月5日)

1.内部環境の分析
 内部環境分析は、外部環境の変化に対応して組織(内部)の環境要因をどのようにマッチさせていくかのことで、要因を「強み」と「弱み」に分けて分析する。
具体的には、組織が属する業界において、商品のブランド、技術力(設計、製造)、コスト競争力、もちろん財務、人材等について競合他社との比較し、その優劣を分析する(組織の4Mについて強弱を分析してもよい)。
 また、これらの分析とは異なるが、組織の社会に対する存在意義と組織の価値観(通常、経営理念等に示されている)に基づく行動指針等を明確にする。

2.SWOT分析
 外部環境と内部環境とを理解して、組織の経営戦略の策定又はリフレッシュしていくこととなる。これらの分析手法としてSWOT分析がある。詳細については、それらの文献に委ねることとして、概要を下記に紹介する。
 SWOTとは、Strengths(強い) Weaknesses(弱い) Opportunities(機会) Threats(脅威)
のことを指し、組織の業界の外部要因と内部要因の組み合わせで、組織の経営(事業)戦略を決定していく手法である。 

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3.課題の設定とリスク軽減策
 SWOT分析から事業戦略を決定し、課題の設定とリスク軽減策の策定と実行を行う。
@ 強みを活かして、機会を勝ち取るにはどのような課題があり、それを解決する
A 機会を逃さないための他社との差別化の課題を明確にして、解決する
B 弱みを補強して機会をつかむための課題と対応策を明確にして解決する
C 弱みから最悪のシナリオ(倒産等)を避けるための方策を実行する

 なお、規格では「品質マネジメントシステムの意図した結果を達成する能力に影響を与える、外部及び内部の課題を明確にすること」を求めている。
したがって、事業戦略の一部として、該当する事業の品質マネジメントシステムに関連する外部環境(要因)と内部環境(要因)に焦点を当ててSWOP分析を行って課題を明確にすることでよい。


航空産業でいえば、世界的には東南アジアの新興国の経済成長とともに民間航空機の需要が年5%の成長が見込まれている。日本政府は、航空宇宙産業を国家プロジェクトに育成すべく、その中核として中部地域を「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター特区」に指定してきた。これはまさしく、外部環境の変化である。

これに伴って既存企業のみならず、新規参入を目指して多くの組織(企業)、大学、研究機関が活動を加速させている。現在まで1次供給者(サプライヤ)がプライムとなり、Tier 2メーカがTier 1を目指し、海外との直接取引対応、一貫生産体制構築等といった航空機産業を取り巻く外部環境(要因)は、大きく変わってきている。

 また、品質マネジメントシステムに関する顧客の要求というより、航空宇宙業界の要求として、JISQ9100認証取得、特殊工程へNadcap認証取得の要求は、外部要因の変化の一つである。海外との直接取引対応、一貫生産体制構築等に対応する品質マネジメントシステムはどのように構築していくかはまさしく、組織の課題であり、解決を求められることである。

 この航空宇宙産業における発展の機会(Opportunities)に、組織としての内部要因を分析して、強い分野あるいはプロセスはさらに強く、弱い分野は補強していくことが、この章での求めていることである。

文責:門間 清秀