【連載コラム】 特殊工程とNadcap認証について


連載コラム 第1回 特殊工程管理要求の歴史(1)

(2013年11月12日)

 現在、航空機製造の特殊工程管理について、Nadcapシステム構築と認証取得について話題が上らないことはない状況です。この“Nadcapとは”については、当社ホームページにてご覧いただくとして、第1回目は、航空機に対する「特殊工程管理要求」の歴史を紐解いてみたいと思います。

 航空機に対する特殊工程管理の要求は、航空機への品質管理と密接に関係しております。米軍における航空機の調達において、第2次世界大戦中までは、「品質確保の責任は、買い手にあり」ということでした。
したがって、米軍が良い航空機を確保するには、多くの検査官を動員し、検査を強化して、品質を確保することでした。米軍は、当時約5万人の検査官が従事したといわれています。

 第2次世界大戦後、これでは米軍の本来の職務ではなく、航空機メーカに品質管理の実施を要求し、その品質管理の対価を支払うことにしたのです。それがMIL-Q-5923「航空機及び関連機器の品質管理要求事項」(1950年制定)です。
この要求は、米空軍(USAF:US Air Force)の要求事項で、その後、MIL-Q-5923C(品質管理一般要求事項)1956年に改訂され、日本では、防衛庁がF-86F,F-104J戦闘機のライセンス生産において採用し、企業側に要求、展開されました。

 このスペックの特殊工程に関する要求事項は、次のようの要求です。

 MIL-Q-5923C 3.11 Special Processes
Processes such as welding, x-ray, magnetic, particle inspection, heat treatment,plating and anodizing, including the equipment and operating 
personnel, shall be subject to approval or certification, when so required by contractually 
applicable Government specifications.

Prior to requesting Government approval or certification of sub-contractor processes,
 the prime contractor shall assure that his sub-contractors are fully qualified to
 perform such processes.


 “契約上、政府機関(この場合、米軍)の適用スペック(仕様書)で要求される場合、溶接、x線検査、磁気探傷検査、浸透探傷検査、熱処理、メッキ、アノダイズのような工程は、設備、作業者を含めて承認、または検定されなければならない。”   と規定しており、さらに、
“下請業者(サブコントラクター)に対し政府承認、または検定を要請する場合、主契約者(プライム)は、下請業者がこの特殊工程を実行するのに十分であることを保証しなければならない”
と要求したのです。1950年代の航空機といえば軍用機で、顧客は軍(政府)です。

 現在のJIS Q 9100:2009の要求事項とMIL-Q-5923C比較してみましょう。

JIS Q 9100:2009 7.4.1 購買プロセス 
c) 要求がある場合には、組織及びすべての供給者が、共に、顧客の承認した特殊工程供給者を使用することを確実にする。

 上記で、「組織」を「主契約者(プライム)」に置き換え、「供給者」を「下請業者」に、「顧客」を「政府機関:米軍」に置き換えれば、全く構図は同じになりますね。

 この1950年代の特殊工程承認、又は検定の構図は、現在、PRI(Performance Review Institute)が政府、又は顧客に代わったとみれば、基本的に変わっていないのです。

 Nadcap認定は、第3者審査ではなく第2者監査に果てしなく近いのです。PRIは顧客の代理人なのです。

 次回は、シリーズ第2回 特殊工程管理要求の歴史(2)として、ISO9001及び防衛庁共通仕様書との関係を解説します。

第3回は、「特殊工程」はどうしてこのような厳格な管理が必要か、について解説します。

文責:門間 清秀


連載コラム 第2回 特殊工程管理要求の歴史(2)

(2013年11月21日)

 航空機産業は軍用機の開発・生産から発展してきました。民間旅客機が本格的にジェットエンジンを装備してきたのは、1970以降のことです。日本の場合は、特に航空機に占める軍用機生産高の割合が1980年、1990年、2000年でそれぞれ約80%,70%,60%でした。

 このような状況で航空機産業は、1960年以降2000年に至る40年間は、防衛庁(自衛隊)向け航空機製造に関する品質保証、品質管理システムで運用してきた経緯があります。当然、同盟国である米国航空機メーカのライセンス生産又は共同開発がベースとなっていましたので、日本の航空機の品質保証、品質管理システムも米国航空機産業、それも軍用機をベースとして構築されてきました。

 米国では、MIL-Q-5923CがMIL-Q-9858A(1963年)に置換され、航空自衛隊機では米国のMIL-Q-9858Aに合わせて、C & LPS Y00004品質保証共通仕様書(航空自衛隊仕様書1970年)となり、さらに陸・海・空自衛隊向け装備品に対する防衛庁仕様書である品質管理共通仕様書DSP Z 9001が誕生したのです。1979年のことです。 航空機産業での自衛隊向け生産高が80%以上を占めていた時代です。長く書いてしました。

 本論の特殊工程管理に戻りましょう。防衛庁仕様書DSP Z 9001での特殊工程に関する要求事項は、次のようでした。

 DSP Z 9001 2.5.2 (3)特殊工程

(a)契約の相手方は、特殊工程について契約要求事項を満足するために、その状況に応じ 一般の作業工程に比し、より完全な作業指導書を作成すると共に、工程管理手順又は 工程仕様書並びに必要に応じ工程の処理及びその審査方法を規定するなど適切な維持・管理 を行わなければならない。(注記:契約の相手方とは、防衛庁から見ると供給者です。)

(b)契約の相手方は、外注業者の特殊工程について、その能力及び管理が十分であることを 保証しなければならない。

 上記でもわかりますように、防衛庁は契約の相手側に対し、特殊工程管理についてサプライチェーンすべてにわたり厳格な管理を要求していたのです。

 ・顧客(防衛庁)→契約の相手方(プライム)→外注業者(供給者)

 MIL-Q-9858Aでも当然、特殊工程管理について多くのスペースを割いて要求していますが、ここでは省略します。

 ISO9001(1987年)制定により、世界的な品質管理、品質保証活動の流れは、品質マネジメントシステム認証制度へと移ってきたことは、周知のとおりです。ISO9001:1987版は、1994年に改訂されましたが、ともに要求事項の中には、「特殊工程」という条項で残されていたと思います(確約できませんが)。

 その後、ISO9001は、2000年及び2008年に改訂されて、現在に至っています。この中で、7.5.2「製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認」の条項は、まさしく特殊工程に対する管理要求事項です。

 米国では、元レーガン大統領の規制緩和策の一環として、MIL-Q-9858Aはもちろん、多くのMIL-Specが廃止となりました。MIL-Q-9858Aは1996年廃止により、米国航空機(軍用機を含む)に対する品質プログラム要求事項は、ISO9001に代替されることになりました。

 しかし、ISO9001の要求事項では、航空・宇宙製品には緩すぎ、品質が確保されない恐れがあるということが議論され、AS/EN/JISQ9100が2000年に制定となりました。その後、改訂され現在のJISQ9100:2009になりました。

 これに合わせて、防衛省規格DSP Z 9001, DSP Z 9002, DSP Z 9003は一本化され、2010年に,品質管理等共通仕様書DSP Z 9008として制定されました。 この中で、特殊工程という条項はありませんが、基本要求事項として、JISQ9100を引用していますので、JISQ9100の7.5.2「製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認」が要求されていることになります。

 長々と記述してきましたが、航空・宇宙・防衛製品に対する「特殊工程への要求事項」は、製品に対する管理要求事項から、組織に対する品質マネジメントシステム要求事項に代わって来たということはありますが、本質的には1950年代から変わっていないということです。それは、特殊工程管理の重要性を物語っているからです。

次回、第3回では「なぜ特殊工程は、厳格な管理が要求されているか」について解説します。

文責:門間 清秀


連載コラム 第3回 特殊工程の厳格な管理の必要性

(2013年11月29日)

 規格JIS Q 9100:2009 7.5.2項「製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認」の要求事項を確認することから始めましょう。下記は、7.5.2項の記述です。なお、ここではサービス提供の用語は省略して記述します。

 “製造の過程で結果として生じるアウトプットが、それ以降の監視又は測定で検証が不可能で、その結果、製品が使用された後でしか不具合が顕在化しない場合には、組織は、その製造の該当するプロセスの妥当性を確認しなければならない。
 注記 このようなプロセスはしばしば、特殊工程と呼ばれる。”

 斜体で太字部は、航空・宇宙・防衛産業分野の組織に適用される要求事項ですので、7.5.2項の要求は、JIS Q 9100では、熱処理、化学処理、複合材成形、溶接、非破壊検査等に適用される条項であることは明確です。

 事例で説明しましょう。
 熱処理を行った製品の品質、例えば引張強度、疲労強度、靱性等は、外観検査、寸法検査では、確認できません。
何も確認しなければ、使用直後に破壊して初めて熱処理が悪かったから破壊に至ったということになりかねません。それでは過酷な環境状態で長期間、航空機等を運用することはできません。

 熱処理後の硬度検査で一部の特性を引張強度の代用特性としては使用できますが、疲労強度、靱性等を確認しようとすれば、製品から試験片を切り出すか、同じ材料の試験片を同時に処理し、それらの試験片について、破壊試験を行なって品質を確認しなければなりません。経済的、日程的に大きな負担となります。

 この対策のためには、熱処理炉内の均一な温度分布を確保できる設備、温度スケジュール(昇温、保温時間、降温)等の工程管理パラメータの設定と実施により品質を確保しています。当たり前のことですね。

 化学処理、メッキについて言えば、密着性、耐食性、耐摩耗性等の品質を外観検査、寸法検査では確認することができません。処理液組成分、処理時間、必要に応じて電流・電圧等のパラメータを設定して管理・実施することにより品質を確保しています。

 化学処理においては、処理前の洗浄工程は密着性に多大の影響を及ぼします。高張力鋼へのメッキでは、処理後4時間以内に、200℃前後でベーキング処理を行わなければ水素脆性をきたし、破壊する恐れがあります。このようにメッキ処理そのものの工程管理もさることながら、その前後の処理工程にも厳格な管理が必要です。

 浸透探傷検査、超音波検査等の非破壊検査では、検査設備の性能と維持管理はもちろんのこと、検査手順を定めて実施し、検出されたインディケーションの評価・判定を行う検査員の力量に依存しています。
検査員の力量がなければ欠陥が存在しても、欠陥がインディケーションとして検出されず、誤判定となってしまいます。したがって、検査員が一人で判定できるまでに最低400時間、700時間(非破壊検査の種類により異なります)の経験が要求されています。

 特殊工程の品質確保には、機械加工とは管理の深さが異なる設備、人、プロセスの厳格な管理が必要となるわけです。

文責:門間 清秀


連載コラム 第4回 Nadcapのスタートの狙い

(2013年12月09日)

 特殊工程の重要さは理解していただけたと思います。ではなぜNadcap認証制度が立ち上げられ、それが全世界の航空宇宙防衛産業に展開されていったか。この辺の経緯について解説しましょう。 このことを理解するとNadcap認証取得する意味が理解されると思います。

 Nadcapプログラムは、米国で立ち上げられた特殊工程認証プログラムです。Nadcapは、National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Programの略称でした。従って、最初は、NADCAP認証と記載されていたのです。1990年のことです。

 それはともあれ、米国航空宇宙産業の発展とともに、航空機及び航空エンジンメーカのプライムであるボーイング、GE, P&W等のサプライヤコントロールの業務は増加する一方でした。特に、特殊工程の管理については、自社の管理だけでなくサプライヤ(Tier1,Tier2,Tier3・・・)の認証、再認証の業務は、サプライヤの増加とともに増加の一途をたどりました。

 サプライヤチェーンすべての供給者の全特殊工程を認証することは、人的資源面から困難な状況に遭遇してきました。一方、供給者にとっても、多くの航空宇宙産業の顧客を持つ場合、顧客の認証監査及び更新監査を受けるのに多大の労力を要するようになってきました。

 そこで考えられたのが、“米国航空機メーカ、航空エンジンメーカ等の代理人による特殊工程の監査結果が適切であれば、米国航空宇宙産業界はサプライヤの特殊工程管理の状態は適切であると認める”との特殊工程認証監査制度を設置したのです。この段階では、適用は米国企業だけでした。この代理人がSAE傘下のNPO法人PRI(Performance Review Institute)なのです。代理人が行う監査ですから、純然たる第三者監査ではないのです。

 その後、経済のグローバルとともに、米国の航空機メーカ、航空エンジンメーカ、装備品メーカは、グローバルな部品調達の展開を強化しました。 この特殊工程認証制度を米国だけでなく欧州、アジアにも展開したわけです。欧州には2000年ロンドンPRI事務所を、アジアには2003年北京PRI事務所、2004年日本事務所(愛知県春日井市)を開設しました。

 これらは、アメリカ航空宇宙産業界のグローバルサプライチェーン戦略の一環に他ならないならないのです。

<参考>
AS/EN/JISQ9100が制定されたのが2000年ですから、Nadcap制度はそれ以前から運用されてきたのです。そして、AS/EN/JISQ9100、Nadcap認証制度は、米国航空宇宙産業界に込められたグローバル戦略そのものなのです。

文責:門間 清秀


連載コラム 第5回 特殊工程と誰が決めるのか

(2013年12月20日)

 特殊工程の範囲(Scope)の具体的例として熱処理、化学処理、溶接、複合材成形、非破壊検査等があります。では、それらの工程について、誰が特殊工程との「名称」で社内、あるいは供給者に示しているかということを解説します。

 特殊工程は、熱処理、化学処理、溶接、複合材成形、非破壊検査等であるとシリーズ第一回から説明しているのに何を言うのかと言われそうです。Nadcap認証の対象にされる特殊工程の範囲は、何かということです。熱処理でもNadcap認証の対象にするプライムもあれば、対象にしないプライムもあり、その理由はさまざまです。

 しかし、共通している基本的要件は、顧客又は自社の製品仕様書、又は図面、もしくは品質管理仕様書、品質マニュアル、細部規定等から呼び出されるか、引用される熱処理、化学処理等のスペックに*1「当社の品質保証部あるいはMCL(Material Control Laboratory)の承認を得なければならない」と要求されている工程が特殊工程です。
*1参考:PRIのNadcap認証は、ボーイング等の代理人というより各企業の品質保証部、
   MCLの代理人なのが理解できますね。

 したがって、顧客又は自社、つまり企業によって特殊工程の範囲が異なるということです。極端な事例を示しますと、熱処理、化学処理の専門メーカーにとって自社のそれらの工程はなんら特殊工程でも何でもありませんね。

ボーイングが特殊工程を規定していることが、GE,ハネウエルで特殊工程ではない例もありますし、その逆なことも言えます。顧客となるボーイング、エアバス、GE, ハネウエル等々それぞれ独自に決めていることです。

上記*1の要件を満たさなければ、Nadcap認証の対象とならないことになります。
どのような場合、Nadcap認証の対象とならないかは、次回シリーズ第6回にて解説します。

文責:門間 清秀


連載コラム 第6回 Nadcap認証の対象とならないプロセス

(2014年2月6日)

 第5回にてNadcap認証の対象は、顧客又は自社の製品仕様書、又は図面、もしくは品質管理仕様書、品質マニュアル、細部規定等から呼び出されるか、引用される熱処理、化学処理等のスペックに「当社の品質保証部あるいはMCL(Material Control Laboratory)の承認を得なければならない」とされている工程がNadcap認証の対象と解説しました。

 一方、Nadcap認証の対象としなくてもよい製品の工程あるいは、対象とならない工程はどのような工程かを簡潔に事例で説明します。ただし、一般論であり絶対的なことではないことに留意してください。

(1)航空機、宇宙機器等に搭載されない治具類(教育訓練用、実用試験用の供試体は対象です)。
     理由:地上での使用であり、厳格な工程管理要求がなされていない製品が多いからです。


(2)熱処理、化学処理、非破壊検査等の工程を仕様書、図面等に処理を呼び出していても、それらの
    処理仕様書(Process Specification)を明記していない工程。
     理由:特殊工程としての認証審査基準が明確でないので、Nadcap審査で工程の適合性を判定
          できないからです。


(3)顧客がNadcap認証取得を要求していない場合
     理由:顧客の都合。例えば、Process Specification要求事項の技術流出の懸念、あるいは
          認証取得を要求することによって、プライムとしての新たな管理業務負担が増加する等が
          考えられます。

 それでは、顧客の要求がない場合、Nadcap認証を受けることができないかというとそうではありません。その場合、対象製品を自ら設定(図面化)し、それに基づいて製品を製造し、特殊工程の処理仕様書(Process Specification)を定めることにより、Nadcap認証を受けることができます。

この場合、処理仕様書(Process Specification)は、AMS,AWS,ASTM等の公共規格を採用している場合が多いです。

文責:門間 清秀


連載コラム 最終回 一貫生産に対する新たな取り組み

(2014年2月12日)

 航空宇宙産業における熱処理、表面処理、非破壊検査等の特殊工程の運用には、設備、工程、人に対する顧客の技術・管理要求への満足はもちろん、JISQ9100、Nadcap認証取得というハードルがあります。

それ以外に「特殊工程設備の稼働率の低さ」という経営的なネックがあり、従来は航空機プライム、Tier1メーカが設備を設置し、作業者、検査員を養成して、特殊工程を担ってきた経緯があります。

 しかし、近年プライム、Tier1メーカは、Tier2メーカに素材調達から機械加工、特殊工程の一括発注(一貫生産の発注)への転換を強く求めています。

 この対応として、Tier2の中でも中規模企業は、経済産業省補助事業を活用して、特殊工程設備等を整備し、周辺企業と一体となって一括受注を目指しています。

その例としては、長野県の多摩川精機株式会社は、2013年11月多摩川パーツマニュファクチャリング(株)会社を設立し、熱処理、表面処理、非破壊検査の導入と稼働に向けた準備をしています。

岐阜県の天龍エアロコンポーネント(株)は、化学処理設備を導入して、一貫生産に対応しつつあり、新たな動きです。

 これからは、作業者、検査員の養成、Nadcap認証取得と運用に進むと思います。着実に推進され、日本航空メーカからの受注だけでなく、海外からの受注を目指して頑張ってほしいと思います。

文責:門間 清秀